以前訪問した会社の中に、「ウチは仕事の出来る人ほど、残業する」と語った経営者がいた。私は、その真意をはかりかねたので、その経営者に話を伺った。
その経営者はこう語った。少しうろ覚えだが、趣旨はあっていると思う。
「残業時間と、能力にはある程度の相関があると考える人が多い。そして、その考え方は大きく分けて2通りだ。
一つ目は、「残業時間が多い人は、無能だ」とする会社。これは効率を重んじ、残業代を抑制し、「仕事が遅い人」ほど残業代が多くもらえるという不公平を解消する、という目的でやっている会社が多い。
二つ目は、「残業時間が多い人は、熱心に仕事をする人だ」とする会社。これは、「長時間労働も厭わず働く」という姿勢自体を評価し、「残業代」を最初から織り込んで給与を決定している会社に多い。」
なるほど、たしかにそうかもしれない。私は「そうですね」と、相槌を打った。
その経営者は続ける。
「しかし、その2つの考え方には両方ともにメリット、デメリットがある。
まず、一つ目の考え方のメリットは、生産性が高くなりやすいこと、時間が決まっていると集中力が高まるのは事実だ。デメリットは残業が必要なときに、だれも残業をしたがらなくなってしまうこと。会社が平均的に忙しい、ということはあまりなく、忙しい時と暇な時が交互にやってくる。
そして、二つ目の考え方のメリットは、その逆だ。ピーク時にも残業してくれるし、「長時間でも働きたい」という人の意欲を削がずにすむ。もちろんデメリットは、人件費が高く付くこと、あとはダラダラ仕事してしまう人が増えてしまうことだ。」
「なるほど、残業の扱いは難しいですね。」
「その通り、だから、ウチはもう少し違う方法を考えた。」
「どんな方法ですか?」
「ウチは、仕事の出来る人ほど残業する、という考え方をとった。」
「?…それは、残業時間が多い人は熱心だ、という考え方ですか?」
「全く違う。ウチは、残業を「生産性の高い人物にしかやらせない」という考え方をとっている」
「どういうことでしょう?」
「ウチは、残業は許可制だということだ。そして、仕事の出来る人にしか残業をさせない。逆に言えば、生産性が低く、評価の低い人物には残業をさせない。さっさと帰ってもらう。逆に言えば、出来る人にはどんどん仕事を回す。」
「なるほど、でも、出来る人が不満を持ちませんかね…?」
「最初はそういう恐れもあった。しかし、出来る人は仕事も早い。3時間以上の残業をする人はほとんどいない。その上、残業代は法律で定められている金額の1.5倍払っている。出来る人はかなりのお金を手にできる、という訳だ。年収にはかなりの差が出ると思う。」
「そうなんですか。変わったやり方ですね。」
「だから、「残業できる」と言うのは、うちの会社では特権なんだよ。」
残業には、何かと長時間労働や不公平感などの問題もついて回るが、いろいろな会社があるものだ、と改めて感じた。
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